相続した不動産の売却は何から始める?流れや注意点をわかりやすく解説
相続で不動産を取得したものの、売却の流れや手続きについて悩んでいませんか。遺言書の確認や相続人の確定といった初歩的な手続きから、実際の売却や税金対策まで、不安になるポイントは多いものです。この記事では、初めての方でも安心して進められるよう、相続不動産の売却に必要な各ステップを分かりやすくご説明します。大切な資産を適切に売却するために、ぜひご参考ください。
相続が発生してから売却準備までのステップ(遺言書の確認から相続人の確定、遺産分割協議、相続登記)
まず、相続が発生したら、はじめにすべきは遺言書の有無の確認です。自筆証書遺言が見つかった場合は、家庭裁判所で検認を受ける必要があり、勝手に開封することは違法(過料の対象)になるおそれがあります。一方、公正証書遺言であれば、公証役場で原本を取得することで、手続きを進められます。
次に、遺言書がない場合には、法定相続人を確定したうえで、相続人全員による「遺産分割協議」を行い、「遺産分割協議書」を作成することが不可欠です。この協議書がなければ、不動産の名義変更(相続登記)が進められません。
遺産分割協議書が整ったら、法務局に相続登記(名義変更)を申請します。登記に必要な書類は、戸籍謄本や固定資産評価証明書、遺産分割協議書など多岐にわたります。登記申請は相続開始を知った日から3年以内が原則となり、期限を過ぎると10万円以下の過料が科される可能性があります。
以下に、このステップを分かりやすくまとめた表を示します。
| ステップ | 内容 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 遺言書の確認 | 自筆証書は検認、公正証書は公証役場で謄本取得 | 勝手に開封しない、自筆証書には検認が必須 |
| 遺産分割協議・協議書作成 | 相続人全員で遺産の分割方法を話し合い、協議書を作成 | 相続人全員の署名捺印が必要 |
| 相続登記(名義変更) | 必要書類を揃え法務局に申請 | 相続発生から3年以内に実施、期限超過は過料の対象 |
売却の準備と媒介契約のポイント(査定・媒介契約選び)
相続登記が完了したら、まずは売却前の査定を信頼できる業者に依頼することが肝心です。複数の業者に査定を依頼し、査定額の根拠や売却戦略をしっかり比較しましょう。机上査定と訪問査定の違いにも注意し、机上査定は数時間から数日程度、訪問査定は1~2週間ほどかかることが一般的です。
次に、媒介契約の種類を理解して、自分にふさわしい契約形態を選びましょう。媒介契約には、一般媒介契約、専任媒介契約、専属専任媒介契約の3種類があります。以下に主な違いを表で整理します。
| 媒介契約の種類 | 他社との契約 | 自己発見取引 | レインズ登録義務 | 売主への報告義務 |
|---|---|---|---|---|
| 一般媒介契約 | 複数可 | 可 | なし | なし |
| 専任媒介契約 | 不可(1社のみ) | 可 | あり(7日以内) | 2週間に1回以上 |
| 専属専任媒介契約 | 不可(1社のみ) | 不可 | あり(5日以内) | 1週間に1回以上 |
一般媒介契約は自由度が高く複数の業者に依頼できますが、業者側の報告義務や情報共有義務がないため、売却活動が消極的になりやすい点があります。一方、専任媒介契約や専属専任媒介契約は、業者に対してレインズへの登録や頻繁な報告義務が課せられているため、より積極的な売却活動が期待できます。
たとえば、早期売却や着実な進捗を重視される場合は、専任媒介契約または専属専任媒介契約を選ぶのが賢明です。専任媒介契約では自己発見取引も可能であり、売主の自由度も維持できる点が魅力です。一方、自己発見取引を重視せず、厳格な報告を重視される場合は専属専任媒介契約が適しています。
最後に、査定価格と実際の売却価格には差が生じることが多いため、過大査定にはくれぐれも注意しましょう。不動産会社によっては、媒介契約を結んでもらうために意図的に高めの査定額を提示する場合があります。査定額の根拠や売却成功への具体的な戦略まで丁寧に説明してくれる業者を選ぶことが重要です。
売買契約から引き渡しまでの具体的な流れ
相続した不動産の売却においては、買主との条件交渉から売買契約締結、手付金の受領、決済・引き渡し、そして所有権移転登記まで、一連の流れを丁寧に理解することが大切です。
まず、売却条件の交渉が整うと売買契約を締結し、手付金を受領します。手付金は売主と買主の契約を確実にするためのもので、通常は売却価格の数%程度です。その後、決済日に残代金を受け取り、登記や鍵の引き渡しなどが行われます。この際、所有権移転登記(名義変更)は法的な所有者を正式に変更するために不可欠です。登記手続きには法務局への申請や登録免許税の納付が必要ですので、専門家のサポートを受けると安心です。
売却後には税務上の手続き、特に譲渡所得に関する確定申告が求められます。譲渡所得とは「譲渡収入金額-(取得費+譲渡費用)」で計算され、これにより譲渡所得税と住民税が課されます。相続税申告と売却が相まって税額計算が複雑になることもあり、取得費が不明な場合は売却価額の5%を概算取得費として用いる方法も認められています。さらに、「取得費加算の特例」や「空き家特例(3,000万円特別控除)」などを活用できる場合がありますが、これらは併用ができないケースもあるため注意が必要です。例えば、取得費加算の特例は相続税申告期限後3年以内に売却した場合に適用されますし、空き家特例は一定の要件を満たした空き家を相続後3年以内に売却する場合に譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。
以下に、売却の主要なステップを表形式でまとめました。
| ステップ | 内容 | 留意点 |
|---|---|---|
| 1. 条件交渉・売買契約 | 売却価格や引き渡し時期などを交渉し契約を締結 | 契約内容を明確にし、手付金の額や解除条件も確認 |
| 2. 手付金の受領・決済・引き渡し | 手付金受領後、残代金を受け取り、鍵などを引き渡し | 残代金や費用の受領確認、鍵や諸資料の引き渡しを確実に |
| 3. 所有権移転登記 | 登記申請と登録免許税納付により名義変更 | 法務局への申請と税金納付が必要、専門家への依頼が安心 |
| 4. 確定申告・税金 | 譲渡所得税・住民税の確定申告(翌年の2月16日~3月15日) | 特例の適用可否を確認し、期限内に申告 |
譲渡所得の税率は、所有期間(被相続人が取得した日から数えます)が5年超なら長期譲渡(約20%)、5年以下なら短期譲渡(約40%)となります。取得費や譲渡費用が明確でない場合の5%特例や、特例制度の適用可否についても十分に確認し、必要に応じて税理士など専門家に相談されることをおすすめします。
節税や手続きの注意点(期限や特例、費用負担の分担)
相続不動産の売却にあたっては、いくつかの節税制度や手続き上の注意点を押さえておくことが大切です。以下に、整理したポイントをご紹介します。
| 項目 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 取得費加算・3,000万円特別控除 | 相続により取得した不動産については取得費に特別加算が認められます。また、居住用財産を売却した場合、3,000万円の特別控除も利用できます。 | 節税効果が大きいので、適用条件を確認しましょう。 |
| 税金・費用の負担時期・分担 | 譲渡所得税・印紙税・登録免許税などがかかります。登記費用や税金の負担タイミングや分担方法を明確にしておくと安心です。 | 費用は売主負担になることが一般的ですが、契約前に確認を。 |
| 期限や注意点 | 相続登記義務化(2024年4月1日開始)では、「相続を知ってから3年以内」に登記をしないと10万円以下の過料が課されます。また、過去の相続も対象で、2027年3月末までに登記が必要です。 | 期限厳守が大切です。再建築不可物件や所有期間による税率差にも注意。 |
まず、「相続税の取得費加算制度」と「3,000万円特別控除」については、売却価格から取得費に加算される金額が大きくなるので、譲渡所得税の負担を軽減できます。ただし、特別控除は居住用の場合に限られるなど適用条件がありますので、該当要件の有無をご確認ください。
次に、売却にかかる税金や各種費用についてです。譲渡所得税、印紙税、登録免許税などの費用が発生します。通常、売主負担となる費用もありますので、媒介契約前に誰がいつどのように負担するのか確認しておくことが望ましいです。
さらに、相続登記は2024年4月1日から義務化されており、「相続を知ってから3年以内」に相続登記を行わないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料が科せられる可能性があります 。また、義務化以前に発生した相続についても、2027年3月末までに登記を済ませる必要があります 。再建築不可の物件や所有期間が長い物件は、売却後の税率にも影響を与える可能性がありますので、事前にご相談ください。
まとめ
相続した不動産の売却は、遺言書や相続人の確認から始まり、遺産分割協議や相続登記など複数の手続きが必要です。その後、売却準備と媒介契約の選択、査定や契約の流れを把握し、節税や各種期限に注意しながら進めることが大切です。初めての方でも流れや注意点を理解しておくことで、不安を和らげ納得した売却が可能となります。今後の手続きや準備に不安を感じる方は、安心して一歩ずつ進めていきましょう。
